小さなきっかけ、大きな出会い


 何事を始めるにおいても、きっかけというものが全ての事に存在する。私は6歳の時に野鳥の世界に飛び込んだ。野鳥の世界に足を踏み入れたきっかけは小さなものであった。それは、多くの小学生に悩みを与えた夏休みの自由研究である。皆さんも悩まされた経験をお持ちではないだろうか。私自身もこの自由研究に悩まされたうちの一人だ。初めての自由研究・・・困り果てた私は当時の担任の先生に相談へ行った。先生は私にたくさんの提案をくれた。「例えば、星を毎晩観察するとか、雲の形を観察するとか、その辺りにいる虫とか鳥を毎日観察するとか色々あるよ。」と。しかし、そのたくさんの提案の中でも何故か私が選んだのは「鳥」だった。なぜ「鳥」を選んだのかはわからない。何か今まで鳥と縁があったわけでも無い。ただ、ほとんど迷いなく私は「鳥」を題材に選んだ。
―――夏のうだるような暑さの日だった。私が初めて野鳥の世界に飛び込んだ日である。

 それから私は何も考えず、適当に図鑑を買い毎日鳥を眺めた。本当に何も考えず眺めていたと思う。先生も提案したからには多少の責任を感じられたのか、色々協力してくださり、野鳥の会という団体があるということを調べ教えてくださった。そこでは毎月探鳥会という集会が開催されているという。すぐさま私は野鳥の会に入会し、そして探鳥会にも参加することにした。探鳥会というのはどういうものだろう・・・そんなことを考えながら地図を頼りに集合場所へ向かった。そこにおられる方々は年上の方ばかりで、何もわからない私を皆笑顔で迎えてくださった。私は年上の方々に混じり、皆と決められたコースを歩き必死に双眼鏡を覗き込んだ。―――電柱に佇むチゴハヤブサ、湖上に浮かぶ無数の水鳥たち、黒く日焼けをしたかのような顔のユリカモメ―――「こんなにたくさん鳥がいるのか!」一人では到底見つけることができなかっただろうたくさんの鳥たちと出会った。だが私にとっての本当の大きな出会いはチゴハヤブサでもユリカモメでも無く、探鳥会に集まる人々との出会いだった。そこで私はたくさんの事を教えていただき、背の低い私のためにスコープを低くしてくださり、さらには抱きかかえてまでスコープを覗かしてくださったこともあった。私はその場所に通うようになり、そこでたくさんの出会いをし、知恵と経験を受け成長していった。ここで初めて鳥とともに生きていきたいという気持ちもうまれるようになった。この出会いはどちらかと言えば内気で遠慮がちだった私の性格を大きく変えた!その上自信と自分独自の世界までをももたらした!

  それから何年かして私は中学生になり高校受験も近くなった頃、自然と探鳥会への足は遠のいていき鳥からも少し距離ができるようになってしまった。そして、高校1年生になった私は周囲の勧めに従い進学クラスに入った。勉強などで忙しい毎日に、すっかり野鳥の世界からは離れてしまっていた。

  高校にも慣れ始め、寒さが日に日に増していた晩秋のある日の事。友人と学校からの帰宅途中1羽の白文鳥がどこからともなく私の肩にとまったのである。ハッとした。遠く離れてしまっていた故郷に帰ってきたような気がした。懐かしさがこみ上げた。幼いころに感じたあの感触・・・。そしてこんな考えまでも浮かんだ。自分が本当にやりたかったことは何だろうか?学校で勉強することだけが本当に自分のためになるのだろうか?私は幼い頃から自分の道を大事にしていた。それが本当の自分のあるべき姿ではないだろうか!?
「この文鳥は私に何か言いに来たのかもしれない。」1羽の文鳥との出会いにより、私は再び野鳥という2文字を近づけられたのだった。

   そしてまた少し時間が経ち、大学生になろうかと言う頃、私はまた野鳥の世界に戻ってきた!数年ぶりに探鳥会にも参加した。長い間参加していなかったにも関わらず、私を迎えていただく姿にはこみ上げるものがあった。1羽の文鳥により鳥の世界に引き戻された。 この偶然の出来事に何か運命的なものを感じ、鳥とともに生きていくという気持ちが以前にもまして強くなって戻ってきた。

   小さなきっかけが私に大きな出会いを与え独自の世界を切り拓かせた。私はあの時、軽い気持ちで「鳥」と言っただろう。はたまた考えるのが面倒になり適当に「鳥」と言ったのかもしれない。いずれにせよ何か覚悟を持って始めたわけではないのは確かである・・・。しかし、鳥は私にたくさんの出会いを与え、そしてまた大きく膨らむだろうきっかけを与えた。一度は野鳥の世界から離れた私を引き戻したのも鳥だった。私は今のところ出会いと偶然の間を生きているようである。私が大人になり社会に出る日もそう遠くは無い。今までは与えられてばかりだったが、今度は逆に与えていかなければならない。それは未来のために自分なりに小さなきっかけを与えていくではないだろうか。私自身も変わらずこれからもきっかけを大事にしていきたい。この先どんな様々な出会いがあるのだろう。

 

内藤 宏一